女性監督率いる香港のクラブがAFCチャンピオンズリーグに参戦！

2016年11月29日 コラム チーム/リーグ経営 Written by 川内　イオ

　チャン・ユエンティン（Yuen Ting Chan）さんこそ、真のパイオニアといえるだろう。

　2014-15年シーズンからスタートした、香港のプロサッカーリーグ「香港プレミアリーグ」。9クラブで争われるリーグ戦で、2015-16年シーズンを制したのが、東方体育会（東方龍獅／Eastern Sports Club）だ。

　このクラブで指揮を執るのが、女性監督、チャン・ユエンティンさん。チャンさんは今年4月、「男子のトップリーグでタイトルを獲得した初の女性指揮官」として、ギネス世界記録に認定されている。彼女を紹介するAFPの記事によると、13歳の時にベッカムに惹かれてサッカーに関心を持ったチャンさんは、自らもプレーするようになり、香港代表にまで上り詰めた。その後、指導者の道を選び、東方体育会のコーチに就任。昨年12月、監督が他クラブに移った際に監督に昇進して、クラブをタイトルに導いた。

　今年11月には、アジアサッカー連盟（AFC）の「年間最優秀女性コーチ」にノミネートされたほか、イギリスBBC放送が選出する「100 top women」にも名を連ね、世界的にも注目を集めるチャンさん。彼女が指揮を執る姿を、日本でも見ることができるかもしれない。東方体育会が、AFCチャンピオンズリーグ（ACL）に参戦することが決定したのだ。

　香港はAFCの規定により、1つのグループリーグ出場枠と1つのプレーオフ出場枠を有し、これまでリーグ戦の1位と2位のクラブが参戦してきた。通常であれば、東方体育会の参戦は文句なしで決まっていたのだが、経済的な問題により出場を辞退するという報道もあり、流動的になっていた。

　しかし、11月21日に開催された香港サッカー協会の理事会により、正式に東方体育会と昨シーズン2位の傑志（Kitchee Sports Club）が参戦すると発表された。正式な参加クラブのリストは12月にAFCより公表されるが、ほぼ確定と言っていいだろう。

　チャンさんは、ACLで初めて指揮を執る女性監督になる。東方体育会は、2016-17年シーズンも、7節終了時点（11/22）で6勝1分の勝ち点19で首位に立っており、チャンさんもチームも勢いに乗っている。グループリーグ出場枠を得た東方体育会が日本のクラブと対戦することになれば、大いに話題を呼ぶだろう。

　チャンさんの存在価値は、女性プレーヤーに夢を与えるだけではない。昨年まで、東方体育会というクラブの名前を知っている人が、香港人以外にどれぐらいいただろうか。それが、チャンさんの名前とともに報道されたことで、「男社会のサッカー界で女性にチャンスを与えた先進的なクラブ」として、世界にその名を知られるようになった。そのブランディング効果は計り知れない。日本のクラブも、指導陣に女性を入れてみてはどうだろうか。それだけで報道陣が殺到することは間違いない。

【了】

川内イオ●文　text by Io Kawauchi

1979年生まれ。大学卒業後の2002年、 新卒で広告代理店に就職するも9カ月で退職し、2003年よりフリーライターとして活動開始。2006年にバルセロナに移住し、主にスペインサッカーを取材。2010年に帰国後、デジタルサッカー誌、ビジネス誌の編集部を経て現在フリーランスの構成作家、エディター＆ライター＆イベントコーディネーター。 ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンターとして活動している。