【セミナーレポート】Bリーグ3年目の挑戦
2019年01月21日 インタビュー チーム/リーグ経営 Written by 深谷 友紀
アルバルク東京の優勝で幕を閉じた2年目のBリーグ。B1・B2総入場者数は1年目より11.8%増の250万2931人。ファイナルも最多入場者数を更新する1万2005人の観客を集めた。満員試合は297試合と前シーズンより53試合も増加し、日本のスポーツ文化の一つとして着実に根付き始めている感がある。
今回、Bリーグの事務局長、葦原一正氏が、セミナー『Bリーグ3年目の挑戦」(主催:株式会社RIGHT STUFF、会場:株式会社フォトクリエイト1階セミナールーム)で、Bリーグ2年目の総括と、3年目の抱負、さらに、中長期的な目標と課題とされるアリーナ問題、代表強化とのリンクなどについて話した。
バスケットボールという競技の枠を超え、地域のアイコンとしての存在になりつつあるBリーグ各チーム。これからのスポーツビジネスのベンチマークの一つとして目が離せないBリーグの未来とは――?
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日本のスポーツを根本から変えたい!
葦原氏は中学時代からスポーツの仕事に就きたいという想いがあり、大学受験で早稲田大学スポーツ科学部を受験するも不合格。早稲田大学理工学部に入学。大学在学中スポーツビジネスに関わる情報を集めていた中、ニューヨークに拠点を置くスポーツマーケティング会社トランスインサイト代表の鈴木友也氏から、「スポーツ界にはいきなり行ってはいけない」というアドバイスを受けたことで、外資系コンサルティング会社に就職することにした。
その後、2007年にオリックス・バファローズ、2012年に横浜DeNAベイスターズで事業戦略立案やプロモーション関連業務に携わってきたが、現状の日本のスポーツ界の仕組みではさまざまな限界を感じるようになった。
日米のスポーツ市場規模を比較すると、日本の5.5兆円に対しアメリカは60兆円に及ぶ。GDPに対するスポーツ市場の比率はアメリカで3%、日本は1%でアメリカは日本の3倍ある。日本の5.5兆円の内訳としては、スタジアムが2.1兆円、スポーツ用品が1.7兆円、周辺産業で1.4兆円、プロスポーツはわずかに0.3兆円とごく一部でしかない。
葦原氏はこの差をどうにかして縮めるために「日本のスポーツを根本から変えたい」と強く思い、新しく開幕するBリーグへビジネスの舞台を移すこととなった。
チケットレス化の加速とリセールシステムについて
スポーツビジネスの観点から見たバスケの特徴に、他のプロスポーツと比較して保有する選手の人数が少なくて済むため、一人当たりの選手年俸が高くできる点がある。アメリカのNBAはもちろん、Bリーグでも選手年棒は上昇傾向にあるという。
そんなBリーグで葦原氏が今後いくつか実現したい施策がある。その代表的なものとして、チケットレスの加速化とチケットのリセールのシステムをつくることを挙げた。
これらの施策のメリットは、利用にあたり個人情報を登録してもらうことでファンの顧客データを取得・蓄積できる。観戦に行けない試合をリセールできるようになることでシーズンシートの新規購買や継続率の向上が期待できる。ただし、チケットの割引価格は定価の30%位までにするなどのルールも必要。
「リセールについては、チケットショップ等に流れるよりは公式でリセールシステムをつくり、お客様の利便性を上げ、リーグ/クラブとしてデータをとれる方が望ましい」というのがBリーグの考えとのこと。
「もともとチケットのリセールには反対の意見であったが、NBAの視察で考えが変わった」と葦原氏は語る。
葦原氏が視察を行ったNBAクリーブランド・キャバリアーズではチケットレスを98%達成している。ファンからの反対意見もあったが、強制的に仕組みをつくりチケットレス化とリセールシステムを立ち上げた結果、ファンはシステムに慣れていき、利便性を理解していったという。このシステムにより得られた顧客データを活用することで10億円以上のスポンサーがついたとのこと。
リーグが持つべき権利について
1994年にはNPBもMLBも市場規模は約1500億円と同じくらいであったが、近年では7倍近く離されてしまっている。この差はリーグガバナンスの構築によるものだと葦原氏は言う。
そのため、Bリーグとしてはセンターコントロールを意識している。映像制作、全クラブHP統一化、カメラマン派遣から写真のメディアへの無償配布、公式記録の作成等々をリーグが一括で行っている。
Bリーグは商標はじめプロパティ管理を大事にしている。一度手放したら戻らないので、目先の利益のために権利を手離すことはしない。リーグにとってコンテンツホルダーの権利は大事である。
アリーナについて
葦原氏は、「ハードとソフトの一体経営がスポーツビジネスの肝である」と語り、今一番のトピックとしてアリーナに関する話を挙げた。
プロ野球では、スタジアムと球団でそれぞれ運営会社が異なっていることから、営業活動のバッティングが発生するなど、経営面で見れば非効率な面があった。しかし近年では、スタジアムとの一体経営で成功を収めている球団も出てきている。こうした事例からもスポーツチームがスタジアム・アリーナを所有することで良い循環が生まれるといえるだろう。
「現状ではBリーグのチームがアリーナを所有することは難しいが、これができれば、Bリーグは中期的にJリーグレベルの規模になれるのではと思っている」と葦原氏は語る。
実際にチームがアリーナを所有する場合、ホームゲーム以外でいかに収益をあげるかが重要になる。しかしライブエンターテインメントも頭打ちの傾向になっており、新しいコンテンツを探さないといけない。そのコンテンツの一つとして、Bリーグのオールスターで実験的なことを行った。
映像技術、音響技術などのテクノロジーを使って臨場感を演出し、現地での一体感を味わえる新しいパブリックビューイングを実施、チケットは完売し非常に盛り上がったとのこと。
この試みは、ホームゲームだけでなくアウェイゲームでもどうにかして稼げないのか?いう疑問から生じ、アウェイゲームの時にホームアリーナでテクノロジーを駆使することでライブ感を出して楽しめるようにすれば、売り上げは2倍になるのではと考えたことによる。
この新しいパブリックビューイングに手応えを感じた葦原氏は「ハードとソフトの一体経営を行う新しいエンターテインメントカンパニーを目指し、5年から10年かけて徹底的にやっていきたい」と語った。
プロスポーツリーグにおける開放型モデルと閉鎖型モデル
葦原氏はリーグ構造についても大きなテーマになっていると言う。
ヨーロッパのスポーツリーグや日本のJリーグは開放型モデルと呼ばれ、リーグが階層構造となっていて昇降格が採用されており、比較的参入がしやすい反面、一部のチーム・選手に利益が集中する傾向にある。
一方NBA、NFL、MLB、NHL等のアメリカのプロリーグは閉鎖型モデルと呼ばれ、新人獲得のドラフト制度やサラリーキャップ制などで戦力均衡を図り、リーグとチームが運命共同体にある。他のスポーツがライバルとなっている。リーグのプレーレベルが鍵となる。
Bリーグでは開放型のリーグ形式を採用しているが、最近の傾向では、ヨーロッパのリーグも閉鎖型へ移行が検討されているとのこと。
スポーツで社会を変える
葦原氏はスポーツビジネスに携わる最終的な目的として、「スポーツを通じて社会を変えられたら」と考えている。
社会課題をどうやって解決していくかがリーグにとっても一番大事だという。
競技団体の壁を壊す、マルチスポーツを見る文化にする、女性の社会進出をスポーツ界から促進していくなど、葦原氏はさまざまな社会課題をスポーツで解決していきたいと話した。
質疑応答
Q.他のアリーナスポーツリーグ、例えばTリーグについてどう思われていますか?
A.あくまでも一般論として、しっかりしたリーグガバナンスの構築が必要ではないかなと思います。
Q.選手のセカンドキャリア、年金についてどう考えられているのですか?
A.財務確保が難しいので現状は未着手の状態です。これから検討しなくてはならないテーマではあります。
Q.指導者による暴力・セクハラ問題がバスケ界で多く見られます、小学生年代からそのような指導を受けた選手が指導者になるという悪循環があります。このことに関してどのようにお考えでしょうか?
A.Bリーグとしても問題という認識を持っています。ユースの充実と指導者への教育が必要と考えています。"指導者が変わらないと選手も変わらない"ので協会とリーグで協議しています。
Q.グッズに関しては、どのようなチャネルでどういうユーザー層に向けているのでしょうか?
A.あらゆるグッズの権利はBリーグが所有していますが、2020年まではいったんクラブに開放しています。2021年以降は検討中ですが、どういう仕組みが良いのか悩んでいるところです。グッズは、今はプロモーションツールになるので、常に身に着けてほしいと思っています。若い人にカジュアルにと考えています。
Q.eスポーツが盛り上がっていますが、スタッツデータを活用する取り組みなどは行っているのでしょうか?
A.お金や話題づくりも大事ですが、同時に大義が大事と考えています。子どもがスポーツのルールや選手を覚えるツールはゲームか漫画かな、と思っています。
Q.3on3、ストリートバスケも普及に重要と思いますがどのように考えていますか?
A.コンテンツとしてはBリーグとしても重要視しています。中長期にわたって検討しています。
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最後に「Bリーグはここまで順調に来ているが、今後はアリーナを重視しデジタル化を促進していきたい。また『B.LEAGUE Hope』で宣言しているように、環境・貧困・ジェンダーなどの社会問題にも貢献をしていきたい。そう言い続けていれば、着実に正しい方向に進んでいけるのではと思っている」と語りセミナーを締めた。
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<講師プロフィール>
葦原一正(あしはら・かずまさ)
公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ 常務理事・事務局長
1977年生まれ、東京都出身。早稲田大学院理工学研究科卒業後、外資系コンサルティング会社に勤務。2007年にオリックス・バファローズ、2012年には横浜DeNAベイスターズに入社、社長室長として、主に事業戦略立案、プロモーション関連業務を担当。2015年からは公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)にてデジタルマーケティングを推進。現職は常務理事、事務局長。
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<了>
深谷 友紀●文 text by Tomonori Fukatani
1970年生まれ。大学卒業後プラスチック成形メーカーに就職し、2010年よりフリーランスのWebデザイナーに転身、2011年からスポーツライターとしても活動を開始。主にサッカーなど地域スポーツクラブHP製作やサイト更新管理、スポーツ系のWebメディアの運営支援、記事寄稿などを行うなど、自身のスポーツ体験含め、「スポーツを語れるWebデザイナー」として活動中。
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実施場所:大和高田市内の公立中学校実施時期:2024年9月~2025年1月活動内容:休日の部活動を地域クラブ活動化し、学校管理外とした練習及び大会引率等の実施業務 :スケジュール調整、種目指導、活