元アスリートが語るスポーツの仕事「やる」から「つくる」へ-Vol.14- 元バスケットボール選手 伊藤俊亮さん(前編)
2019年04月04日 インタビュー アスリートマネジメント/セカンドキャリア Written by Sports Japan GATHER
SJNでは、アスリートとスポーツを愛する人でつくる新しいコミュニティーメディア「Sports Japan GATHER(ギャザー)」のご協力を得て、記事提供を頂いております。
特集『元アスリートが語るスポーツの仕事 「やる」から「つくる」へ』では、元アスリートの方々にセカンドキャリアについて話を聞いています。
今回は、バスケットボール選手を引退後、Bリーグの千葉ジェッツふなばしで事業部長を務める伊藤俊亮さんの登場です。
(出典:Sports Japan GATHER『元アスリートが語るスポーツの仕事「やる」から「つくる」へ-Vol.14- 元バスケットボール選手 伊藤俊亮さん(前編)
』2019年2月4日)
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「“セカンドキャリアの選択肢の一つ”になるように」
伊藤俊亮(いとう・しゅんすけ)さん/39歳
バスケットボール選手→千葉ジェッツふなばし事業部長
■引退の決め手となったバスケットボール界への“ある想い”
2017-18シーズンをもって、16年のキャリアに幕を閉じた千葉ジェッツふなばし(以下、千葉ジェッツ)の伊藤俊亮さん。柔和な人柄で、ブースター(ファン)からは“イートン”という愛称で親しまれ、多くの人に愛された。
また、204cmという高身長と強靭な肉体を生かしたプレーで、長年チームを支え続けてきた。そんな精神的支柱でもあったベテランセンターは、チームが天皇杯2連覇、加えて昨シーズンはリーグ年間王者を決めるチャンピオンシップ(CS)で準優勝と年々勢いを加速させる中、ユニホームを脱ぐ決断をした。
「引退を考え始めたのは、2年前のBリーグ初年度でした。僕自身、当時37歳という年齢を迎えていて『どういう幕の引き方がいいのだろう』と引退のタイミングを模索していたんです。その中で、なんとかプレーを続けることができたのですが、昨シーズンは出場時間もかなり減りましたし、選手としてのパフォーマンスを維持することが難しくなってきました。
オフの期間にどれだけ体を休めても調子は戻らず、トレーニングをして疲れたら、その疲労が回復しないままゲームがスタートする。そういう状況がシーズン中ずっと続いてしまって……。メディカルスタッフの管理のもと、常に体のケアを受けてきたのですが、選手の中で僕に一番比重を置いてもらっているにもかかわらず、パフォーマンスが戻らないので『あぁ、そろそろかな』と思ったんです。これ以上チームやスタッフに迷惑を掛けるわけにもいかないので。それで2018年の2〜3月あたりに、引退を決意しました」
長年にわたって2mを超える体を酷使していたこともあり、30代後半を迎え、体の衰えは避けられなかった。だが、さらに話を聞いていくと、引退を決めた理由はそれだけではなかった。
「実はもともと運営に興味がありまして、2016年オフに千葉ジェッツに移籍する際、同チームの島田慎二社長に『運営に入りたいので、可能であれば少し勉強をさせていただきたいです』とお話をしていたんです。そのこともあり、引退のことで相談したときには『席を用意するよ』と言っていただいて、千葉ジェッツのフロントスタッフを任せていただくことになったんです。島田社長には本当に感謝しています」
チームからは“事業部長”という肩書きが用意され、千葉ジェッツの運営会社社員として働くことが決まった。こうしてセカンドキャリアとして運営に携わることを選択した伊藤さんだが、その背景には、日本のバスケットボール界を長年見続けてきたからこそ抱く、ある想いがある。
「現在のBリーグは3部まで入れると、40チーム以上もあります。正直、ちょっと多すぎるんじゃないかと思っています。というのも、チームの多さゆえに日本人選手が足りていない、という事態が発生しているんですね。各チームが『日本人はこの人数を入れなければいけない』という“絶対数”が決まっているので、たとえけがをしていたり、年齢を重ねて衰えが見え始めている選手でも、ある程度契約が取れてしまうんです。
一見、選手寿命が伸びていいと思うかもしれませんが、決してそうとも言い切れません。なぜなら、チームに必要な人数分の若手選手が出てきたら、それと入れ替わるように引退する選手が突然ワーッと出てくる可能性があるわけです。その選手たちのセカンドキャリアを支援するにも、それだけの大人数を処理できるだけのサポート体制がバスケットボール界は整っていない。そこで考えたんです。自分がチームの運営側で活動していくことで、選手に『あっ、そういう生き方もあるんだ』って、引退後の人生における選択肢を与えてあげることができるんじゃないかと。そして、それができるのは今しかない。そう思ったのも引退を決意した理由の一つですね」
■営業で競技人生の経験を生かす
バスケットボール選手のセカンドキャリアとして、自身がその成功事例になるべく千葉ジェッツのフロントスタッフとして働き始めた伊藤さん。現在は事業部長という肩書きの中で、法人営業をメインに活動。加えて広報・MD(マーチャンダイジング)・デザインと計4部門を束ねている。
ただ、運営側の知識が多少あるとしても、伊藤さんは16年間、競技一筋で生きていたアスリート。あまり経験のないビジネスの世界でどのように働き、4部門もの仕事量とどのように向き合っているのだろうか。
「スケジュールとしては、一般的な社会人の営業職とあまり変わりません。朝早く出社して、その後はスポンサー獲得のための営業活動を行っています。その中で、弊社に興味を持って連絡していただくことがあれば、その企業にこちらから足を運んだり。そういった形でいろんなところを飛び回っています。ただ、営業の訪問時に“おっ、伊藤さんだ!”と僕のことを知ってくださる方もいれば、“スポンサード自体はやりたいと思っているんだけど、千葉ジェッツってどういうチームなの?”とバスケットボールやBリーグのチームについてイチから説明する場合もあります。
そういうときに、僕なら競技のルールはもちろん、これまでのバスケット界の歴史やチームの特徴などを説明することができる。これは、バスケットボール選手としてキャリアが長かったからこそできる仕事だと思うので、タスクは多くて大変ではありますが、それでも競技人生の経験を生かせる仕事を任せていただけるというのは、本当に幸運なことだと思いますね」
ほとんどの地域企業は、どんな形でもその地域に貢献したいという思いがあるため、地域活性化を目的にスポーツチームや選手への協賛を考えていることが多い。
だが、バスケットボールは競技自体がメジャーでも、プロリーグや選手の知名度は低く、メディアで取り上げられる機会もサッカーや野球と比較すると少ない。企業側が知らないとしても、それは仕方がない部分。だからこそ、日本のバスケットボール界全体を熟知した伊藤さんの存在は、営業において大きな“戦力”となっている。
「バスケットボールの話に関しては、具体的な説明やそれに付随する企画提案をすることができます。例えば、スポンサー企業とチームでコラボ商品を出すとか、イベントを開催するっていう企画が出た場合、『こういう企画ならこの選手は得意ですよ』『この選手には今は声を掛けない方がいいですね』というように、現場の状況をある程度把握しているからこそ、双方の目的に沿った提案につなげることが可能となります。だから他の営業スタッフからは、“一緒に行くと話がスムーズに進む!”と言っていただけます(笑)」
すでにアスリートではなく“営業マン”としての実力を身に付け始めている伊藤さん。今後、事業部長としての役割を担うとともに、自身が後輩たちの道しるべとなれば、バスケットボール選手のセカンドキャリアにおいて大きな選択肢の一つになる。
(後編へ続く)
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[PROFILE]
伊藤俊亮(いとう・しゅんすけ)
1979年6月27日生まれ、神奈川県出身。神奈川県立大和高校を経て、2002年中央大学卒業。現役時代は強靭な肉体と204センチの長身に走力を兼ね備えたフィジカルプレーヤーとして日本代表でも長きにわたって活躍した。2018年4月、千葉ジェッツふなばしでのシーズンを最後に現役引退。現在はフロントスタッフとして同チームを運営側から支えている。
HP:https://chibajets.jp/
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(※データは2019年2月4日時点)
【了】
取材・文=佐藤主祥
取材協力=スポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポート戦略における{アスリートと企業等とのマッチング支援}」
記事提供:Sport Japan GATHER
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