【セミナーレポート】海外で二つのサッカークラブを立ち上げてみて分かったクラブ経営のポイント ~カンボジア・ナイジェリアの実情とサッカークラブ経営~
2019年10月12日 インタビュー チーム/リーグ経営 Written by 深谷 友紀
カンボジアプロサッカーリーグ1部「アンコールタイガーフットボールクラブ」とナイジェリア3部リーグ「イガンムフットボールクラブ」、日本ではあまりなじみのない海外リーグにおけるこの2チームに共通することは何かご存じだろうか。
そう、両チームとも日本人である加藤明拓氏がオーナーであることだ。今回は、株式会社RIGHT STUFF主催セミナー『海外で二つのサッカークラブを立ち上げてみて分かったクラブ経営のポイント ~カンボジア・ナイジェリアの実情とサッカークラブ経営~』(会場:株式会社フォトクリエイト1階セミナールーム)において、加藤氏がどのようにしてこの両チームのオーナーになったのか、両チームの現状、海外サッカークラブを経営することの魅力と困難、クラブ経営で重要なこと、海外から見て現在の日本はどのように見えているのか、話を聞いた。
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加藤氏自己紹介及び株式会社フォワード紹介
八千代高校サッカー部時代にはインターハイで優勝し、優秀選手に選ばれた加藤氏は、大学卒業後コンサルティング会社を経て2013年に株式会社フォワードを創立した。
加藤氏は人生のビジョンとして、「2035年 アジア・アフリカからメッシ超え バルサ超え~多くの人々に夢と希望と勇気を~」と掲げている。
また株式会社フォワードの理念を「自らを信じて前に踏み出す人が溢れる世界に」としている。前に向かうという意味でフォワードという社名にした。なお、加藤氏自身の現役時代のポジションはボランチという守備的なポジションであったが、"守ってどうするんだ?”ということで社名をフォワードにした。
ビジョン実現に向けた考え方
加藤氏は人生のビジョン「2035年 アジア・アフリカからメッシ超え バルサ超え~多くの人々に夢と希望と勇気を~」の実現に向けて、現在の環境を以下のように捉えている。
・資産がない
・有名な元プロ選手・監督でもない
・大したネットワークもない
・55歳が一つのターゲット(現在38歳)
このような現状を踏まえ、ビジョン実現に向けて大きく2つのポイントをあげた。
①世界の多くのケースに見られるようなお金持ちになってからサッカークラブのオーナーになるのではなく、クラブ経営で利益をあげて再投資していくこと。
②欧州先進国のクラブ経営に学びつつ、同じことを行うのではなく新しいビジネスモデルを創っていくこと。
アンコールタイガーFCについて
買収の経緯
オーナー企業(トライアジアグループ)の撤退によりクラブ存続の危機に陥ったため、クラブの運営を行っていた吉田健次氏が自らの資産を切り崩して経営権を譲り受けたあと、Facebookにて新オーナーを募集していることに加藤氏は興味を持ち、すぐに吉田氏に財務状況と買収額を聞くなど交渉に入ったという。
クラブミッション
カンボジア国民の夢と希望と勇気の象徴となり、日々の生活の潤いとなる。
アマチュア組織の文化変革
買収後、加藤氏が一番驚いたことは、選手が練習に平気で遅刻する、試合で例えば0-2とビハインドになったらすぐに諦めるなど、プロフェッショナルと呼ぶには遠い組織であったことであった。そこでまず組織改革から着手したという。
組織文化を変えたポイント
加藤氏が行ったことは、“求める価値観の濃度を濃くするために入口と出口の管理と構成員の認識変化”であった。価値観の合う選手を迎え入れ、監督が必要とした選手であっても価値観が合わない選手とは契約を更新しなかった。
加藤氏は選手たちに「君たちの仕事はサッカーをすることではなく、サッカーを通じて夢と希望を(カンボジアの人たちに)与えることだ」と繰り返し言い続けたという。
この手法は、株式会社フォワードの組織強化コンサルティング事業で行っていることと同じだという。
2年経営してわかったこと
「2年経営してわかったことは、クラブ経営だけで黒字にするのは壁が高い」と加藤氏は語る。
カンボジアの人口は約1600万人で、GDP成長率は約7%と経済は成長しているのの、一般的には収入が車を買える程度の水準までには至らず、まだまだこれからという状況。大卒の月収が250ドル(2万5千円~3万円)の中ではチケット1枚あたり1ドルで勝負するのも難しいという。
買収当時のクラブの赤字は4千万円ほどに及んでいた。当初、加藤氏は容易に黒字化できると考えていたが現在は赤字幅が広がっている。加藤氏はどうしたらこの赤字から脱却できるか日夜考えている。
年間200万人の観光客取り込みとクラブブランドビジネス
そこで、加藤氏は観点を変え、ホームタウンを首都プノンペンからカンボジアの観光地であるシェムリアップへ移転することを決断した。14チーム中10チームが首都プノンペンにある中、特色を出すのが難しい。また、クラブの収益だけではなく、クラブのブランド価値を高め、周辺ビジネスを展開していくことに舵を切ったという。
SNS上では若い学生のファンから移転を歓迎する声が多数見られるなど反響があったため、集客への期待も見込まれたが、移転後の開幕戦は500人と惨敗に終わった。
人気No.1に向けて① ターゲティングとコンセプト
この失敗から加藤氏は、“サッカーを見せるだけでなく、雰囲気を楽しむ”というコンセプトを打ち立てた。
顧客ターゲットに関しては、まず学生層の取り込みを図った。学校に足を運びチケットを配ったという。学生の場合、試合を見に行ったら学内で話題になり、一定の学生ファンが増えることにより一般層へ広がっていくと考えた。
これまでは観客のリピート率90%に及んでいる反面、新規層が取り込めていなかった。そこで、人気歌手のショーやブラインドサッカー(視覚障害者5人制サッカー)のクリニック、チャリティマッチなど、これまでサッカーと直接関係ないところとタイアップし、イベントを行うことで一般層への取り込みを図った。
ユニフォームを一新
従来のユニフォームはオレンジ色だったが、オレンジ色はカンボジア人にとって肌が黒く見えるということで敬遠されていたため、ユニフォームコンセプトを“街中で着られる”ように一新した。
販売利益をあげるというよりは、ブランド価値を高めることが目的なので、できるだけ多くの人が街中で着られるように価格を抑えたとのこと。
タイガートゥクトゥク
カンボジアで主流の三輪タクシーであるトゥクトゥクにタイガーFCのロゴでラッピングしたタイガートゥクトゥクをつくり走らせた。トゥクトゥクビジネスは運転手にとって気軽にできて利益の良いビジネスだという。タイガートゥクトゥクを運転手に貸し出すことで、貸し出しの利益をあげるとともにタイガーFCのブランドイメージを図った。
2018年最多サポーター特別賞を受賞
上記の施策を行った結果、カンボジア国内でのアンコールタイガーFCの人気は圧倒的な人気No.1になり、2018年には4000人の観客動員数を記録し、それまで3000人だったリーグレコードを更新した(その後、アンコールタイガーFCの手法をまねたクラブがおよそ5500人程度の動員数を記録)。
人気No.1に向けて② フロントの意識改革
人気No.1になるにはフロント組織の意識改革も必要であった。
「カンボジア人スタッフをマネジメントして業務のパフォーマンスを上げていくにはいくつもの課題がある」と加藤氏は語る。
フロントの意識改革のために加藤氏が挙げたキーワードは「シンプルに」「限界突破」の2つだ。
「シンプルに」 合言葉は「No.1とfirst ever」 、「山を作る」
課題はたくさんあるが、全てはできないのでシンプルに課題を絞る。それはどんなものでもいいので「No.1」になることと、カンボジア初の○○などの「first ever」になることを取り組ませた。これらを行うとメディアに取り上げられ話題になり、観客動員の呼び水となる。
また、シェムリアップでの最初の目標を3000人の観客動員に定め、これを達成するために集中してスタッフに業務を取り組ませた。結果2090人だったが、それまで500人が入ればいい方だったのが2000人以上集めたたことでスタッフは手応えを感じ意欲的になっていったという。
「人間はできないと思ったらやらなくなる。とにかく山を作ることが大事」と加藤氏は語った。
限界突破
長年人類の限界と言われた「1マイル4分の壁」を、科学的手法を用いたトレーニングで世界で初めて突破したロジャー・バニスター氏の話に例え、「無理だと思ったらできない。自分たちが壁を乗り越えるんだ」と加藤氏は繰り返しスタッフに言い続けているという。
イガンムFCについて
イガンムFC概要
6部から参入し、ビジョンとマネジメントを評価され1試合も行うことなく3部に昇格した。
イガンムFC経営参入のきっかけ
「ナイジェリアで作ったサッカークラブでタイガーと提携できませんか?」と友人のナイジェリア人バヨ氏から打診があったことが発端で、加藤氏とバヨ氏との共同出資で運営されている。
ナイジェリアの人口は約1.8億人でまだ増加傾向にあり、平均年齢は約18歳と若い。そのため将来的に魅力的な市場があると考えて、加藤氏は出資に踏み切ったという。
ナイジェリアサッカーで足らないこと
ナイジェリアサッカーの課題は、グラウンド・指導者が不足していることにある。全体的に資金不足のためグラウンドの整備が整わず、あっても荒れたグラウンドが多い。指導者不足の要因は、海外に出る選手は多いが、海外での生活が快適なため指導者として戻ってこないためだという。
また、リオオリンピック時の代表ボイコット騒動で話題となったナイジェリアのサッカー協会の運営力不足も問題と加藤氏は言う。
※この件に関する詳細記事
【セミナーレポート】ドクター高須が支援したナイジェリアサッカーの現状と可能性~支援で大きな役割を担ったナイジェリアサッカークラブの日本人オーナーが語る顛末と背景~
「それでも、国民の半分は20歳以下、その半分が男性で、さらにその50%がサッカーをやっており、サッカー人口は多い。海外へ移籍していく選手も多いが、まだまだ潜在能力の高い選手が埋もれている可能性があり、大きな移籍金を得ることができる。ナイジェリアの選手は身体能力が高いので、環境さえ整えば、世界No.1になれるポテンシャルがあると思います」と加藤氏は語った。
イガンムFC経営方針
イガンムFCでの経営方針は、環境を整えて、良い選手を集め、育て、移籍させて、移籍収益を再投資していく」と加藤氏は説明した。
そのために資金調達をしてグラウンドを作るためにラゴスの郊外バダグリに土地を購入した。現状では、土地をならした程度の整備状況でもう少し資金を調達する必要がある。
そんな状況の中でも、U-17候補に2名の選手が選ばれており、10月のFIFA U-17ワールドカップへの出場が期待されている。欧州移籍のためにはU-17ワールドカップで活躍して注目されるのが必要で、遅くともU-22まで。それ以降の年齢になると市場価値が落ちてしまう。「U-17で活躍して18歳になったら海外移籍が理想的」と加藤氏は言う。どれだけU-17からU-22の代表選手を輩出できるかがクラブ運営の鍵になる。
またアカデミー部門も力を入れており、8月29日(木)~9月1日(日)の4日間、日本の大阪で行われるU-12ジュニアサッカーワールドサッカーチャレンジにナイジェリア選抜で出場することが予定されている。
今後について
「今後はさらに資金調達をして、まずはクラブハウスと人工芝グラウンドを建設します。完成すれば、整備の行き届いた環境はナイジェリアには他にないため、ナイジェリア全土から才能を集めることができます。また、サッカーを通じて築いたネットワークを利用して金融・不動産・海外進出支援の分野でトライアルを行っていく。ナイジェリアにはポテンシャルがあるのですごくチャンスがあると思っています」と加藤氏は語った。
2つのクラブの経営で大事にしていること
「まずその国と人々を心の底から愛することです。その国にネガティブなイメージを持ったままでいると現地の人にすぐ伝わってしまします。そのような経営者の元にはスタッフが残らないケースが多い。資金もコネもない現状では、ミッション・理想・夢を語ることで、"この人と一緒に仕事がしたい”と思ってもらうしかない。そして、現地で信頼できる人を作って任せることが、私が2つのクラブ経営で大事にしていることです」と加藤氏は語った。
加藤氏から見たJリーグについて
加藤氏は現在のJリーグについて、DAZNなどの放映権収入からこの1,2年投資がなされ変わってきているという印象を持っている。
将来はベルギーかポルトガルなどでクラブを買収し、アフリカで育てた選手を送り込む構想があるとのこと。
加藤氏は「ベルギー下部等のクラブを見ていると、日本のクラブの方がマネジメントがしっかりしている感じます。日本はフェアで八百長もなく観客も行儀が良い。なので、欧州と同じモデルで運営する必要がない。Jリーグの良いところは維持しつつ独自性を伸ばしていけばよいと思います。ベンチャー志向の経営者マインドでチャレンジしていかないといけないと考えているので、マネジメント面で投資をしたところがロールモデルとなって一歩抜けてくると思います。私自身も10年以内にJリーグのクラブを持つことが目標です」と語りセミナーの最後を締めた。
質疑応答
Q.イガンムFCについて、公式戦を行わずに3部に昇格したとのことですが、その間、チームはどんな活動をしていたのでしょうか? また、そのような中で代表選手を輩出できたのはどのようなアピールを行ったのでしょうか?
A.基本的にずっと練習していました。代表選手に関しては3部に昇格したことが大きいです。ナイジェリアは1部2部がプロで3部以下はアマチュアですが、3部になると代表選考のチェックが入ることが多くなり、うまくピックアップされるようになりました。
Q.アンコールタイガーFCでの加藤さんとGMの役割分担はどのようにしているのでしょうか?
A.基本的には全てGMに考えていただいて、私が承認する形をとっています。現場にとっては大変でしょうが、私は思いつきでアイデアを出したりしています。選手獲得などは、GMと話し合って決めていますが、交渉等はGMが行っています。
Q. ナイジェリアとカンボジアで少年たちはどのようにしてサッカーに触れているのでしょうか?
A.ナイジェリアではストリートサッカーから始まっています。国内4つくらいのアカデミーでピックアップもされています。カンボジアではフットサルコートが充実していて、そこで少年たちが集まってやっています。
Q.カンボジア1部リーグの給与はどのくらいですか?
A.カンボジアの選手で250ドルから900ドル/月です。カンボジアでは1000ドル/月もらえていると日本で年棒1千万円の人と同じくらいの給料になります。外国人選手ではお金があるクラブで8000ドル/月の選手がいます。
Q.クラブ運営という視点で、加藤さんが注目しているJリーグのクラブはありますか?
A.川崎フロンターレは地域密着が上手くいっているという印象です。鹿島アントラーズはスタジアム内の施設を充実させているなどで注目しています。浦和レッズはチームの強化でNO.1のブランド価値を高めて収益が上がっている印象です。ヴィッセル神戸のような取り組みのクラブがあるとリーグ全体が潤うという意味で素晴らしいことだと思います。
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<講師プロフィール>
加藤明拓(かとう・あきひろ)
株式会社フォワード代表取締役
1981年生まれ、千葉県出身。大学卒業後、株式会社リンクアンドモチベーション入社。
組織人事領域のコンサルティング業務に従事後、スポーツコンサルティング事業部の立ち上げ、ブランドマネジメント事業執行役員を経て、2013年株式会社フォワードを設立し、代表取締役に就任。カンボジアのプロサッカークラブ「アンコールタイガーFC」と、ナイジェリアのセミプロサッカークラブ「イガンムFC」のオーナーも務める。
ブランドコンサルティング領域においては、自動車、電機、アパレル、化粧品、小売など幅広い業界において、国内大手企業を中心に、ブランド戦略策定〜社内浸透〜業務プロセス構築を支援。マーケティング領域に留まらず、ブランドを「経営」や「組織」という観点から捉えるコンサルティングを得意とする。
スポーツコンサルティング領域においては、Jリーグ、プロ野球、ラグビー、バレーボール、バスケットボールなどを中心に数十チームにおいて、選手のモチベーションマネジメントやチーム運営を支援。高校時代には、千葉県立八千代高校サッカー部にてインターハイ優勝、優秀選手に選出される。将来の夢は「メッシ超え、バルサ超え」
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<了>
深谷 友紀●文 text by Tomonori Fukatani
1970年生まれ。大学卒業後プラスチック成形メーカーに就職し、2010年よりフリーランスのWebデザイナーに転身、2011年からスポーツライターとしても活動を開始。主にサッカーなど地域スポーツクラブHP製作やサイト更新管理、スポーツ系のWebメディアの運営支援、記事寄稿などを行うなど、自身のスポーツ体験含め、「スポーツを語れるWebデザイナー」として活動中。
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実施場所:大和高田市内の公立中学校実施時期:2024年9月~2025年1月活動内容:休日の部活動を地域クラブ活動化し、学校管理外とした練習及び大会引率等の実施業務 :スケジュール調整、種目指導、活