【セミナーレポート】地域におけるスポーツの力 ~地域・企業にとってのスポーツの価値とは?~
2021年09月12日 インタビュー チーム/リーグ経営 Written by 深谷 友紀
少子高齢化などに起因する地方の衰退はいわれて久しい。地域活性化・地方創生は日本にとって待ったなしの火急の課題である。そんな中、スポーツにはどのような力や価値があるのか? 地域や地元企業はどのようにスポーツを活用し、地域活性化につなげていけるのか?
今回は、サッカーJ2リーグのFC琉球元代表取締役社長の三上昴氏を迎え、株式会社RIGHT STUFF主催セミナー『地域におけるスポーツの力 ~地域・企業にとってのスポーツの価値とは?~』を開催。あらためて地域におけるスポーツの価値を考えてみたい。
三上氏経歴
三上氏は、幼稚園の頃にJリーグが誕生し、空前のサッカーブームの中で兄の後を追い、必然的にサッカーを始めた。夢は永芳卓磨さん(FC岐阜、大分トリニータなどで活躍)のようなプロサッカー選手を目指していた。
筑波大学時代は風間八宏監督(前名古屋グランパス監督)に教えを受ける。しかしながらプロになる夢はかなわず、プロサッカー選手になった同期に負けない世界で成長するために証券会社へ就職し、金融法人担当円貨債券営業部に配属され、グローバルな上司・同僚に囲まれ、刺激的かつ多忙な毎日を送っていた。
しかし、2018年のFIFAワールドカップ・ロシア大会をきっかけに再びサッカーの世界への興味が湧き上がっていった。
倉林啓士郎氏との出会いからFC琉球へ
「上を目指すため、力を貸してほしい」
三上氏がFC琉球へ加入することになったきっかけは、倉林啓士郎氏との出会いだった。
倉林氏は、東京大学在学中に会社を立ち上げ、サッカーボールをはじめサッカー用品の製造・販売や施設の運営などを行うかたわら、2016年12月に無償でFC琉球の代表取締役社長に就任。一時は債務超過でJリーグのクラブライセンス継続が危ぶまれたところからの再出発だったが、コスト削減のみならず、観客もスポンサーも飛躍的に増やし売り上げも増加、クラブ創設以来初めてJ2ライセンスを獲得するなど、上昇気流に乗っている状態だった。
そしてFC琉球のさらなる改革のために、倉林氏は外部に人材を求めた。三上氏と倉林氏の“出会い”はそんな2018年のことだった。
「選手たちは本当に頑張っていて、J2昇格という大きな目標を成し遂げました。クラブ経営面でいうと、劇的に数字はよくなっているけれど、J1からJ3までの全54チーム(当時)の中でいえば、営業収益はまだ下から3番目の状況で、クラブはもっと頑張らなければならないし、ここからもっと上を目指していくために、力を貸してほしい」
倉林氏からこう言われた三上氏はFC琉球に加入することを決意した。
倉林氏が東京と沖縄の往復で沖縄を離れることも多いため、三上氏には社長室長として常駐し、これまで培ったスキルを生かすことを期待された。
FC琉球で行った提案
三上氏のFC琉球での仕事は、“お金を稼ぐ”ことだった。カテゴリーが下のクラブほど、資金繰りの仕事が重要性が増すという。
沖縄県を代表するクラブとして、沖縄の心を持って戦うことで、県外に沖縄の特産物を知らせたり、沖縄の伝統を保ち、より地域に根付くことがFC琉球の使命であると掲げ、以下の提案を行った
AWAMORI共通ロゴを胸に
琉球泡盛の県外への認知度を高めることに貢献
沖縄伝統的農産物を使ったアスリート向け弁当レシピの開発の研究
沖縄伝統野菜を用いたアスリート弁当。しかしながら、これらの提案は、地域の人たちに響かなかった。
なぜうまくいかなかったか
三上氏は、沖縄の人たちに受け入れられなかった理由として「何がしたいのではなく、“なぜ”が必要だった」と語り、2020年に現役を引退した川崎フロンタ―レの中村憲剛氏のスピーチとゴールデンサークル理論を挙げて説明する。
中村憲剛引退セレモニーでのスピーチ(抜粋)
「僕はフロンターレで学んだことがあって。Jリーガーはお金を稼いで、いい車に乗って、いいものを買って食べて……サッカーをすればいいって、僕は(フロンターレに)入る前、本当にそう思ってました。けどこのクラブに入ってそうじゃないことに気付かせてくれました。地域密着、川崎市の皆さんを笑顔に元気にするって合言葉を持ったクラブに入ったことで、多くの方と接し、多くのものを学び、何より僕自身が皆さんと触れ合うことを楽しみにしてました。
今でも忘れません。2003年(ホーム)開幕戦。雨でした。3000~4000人しか入りませんでした(実際には7357人)。ホントかって思いました。それでも地域密着を続けて、共に歩んできた結果、今フロンターレはこれだけ大きなクラブになりました。これは先輩たちから始まって、川崎フロンターレをいいクラブにしたい、川崎を強くしたいと思うクラブ、サポーター、スポンサーのみんなが同じベクトルを向いた結果だと思いました」
ゴールデンサークル理論
多くの企業は、Whatから始まりHowは説明できるが、Whyが説明できない。一方、NIKE社やApple社など世界的に大きく成功している企業は、Whyから始めて、How、Whatを説明している。
People don't buy what you do; they buy why you do it.
(人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです)
三上氏は「スポーツクラブにおけるスポンサーセールスは、“商品”や“広告”を売るのではなく、クラブの『理念』への強い共感を売っている」ことに気付き、スポーツの価値についてあらためて考えるようになった。
スポーツの価値
三上氏は、従来のようなスポンサー料=露出のみというスタイルから、よりアクティベーションに移行していく。スポーツを通じて5つの経営指標(顧客接点、ブランドイメージ、社会貢献、収益向上、従業員満足度)への貢献が可能だと語る。
顧客接点(SNS/リアル接点)
Jリーグ観戦層に対するより深いプロモーション
ブランドイメージ(付加価値)
スポーツへの貢献、スポーツで活用された実績などからブランドイメージアップ・他社と差別化
社会貢献(CSR/CSV)
地域の子どもの招待、クラブの社会貢献活動支援など。公園遊びなど一緒に体を動かすアクティビティ
収益向上(集客など)
スタジアムでの割引配布や限定プレゼントによる自社店舗への誘客・送客
従業員満足度
スポーツを支援している企業、プロアスリートを支える企業としての従業員のモチベーションアップ、新規採用にも有効
ホームタウン(ベンチャービジネス・NPO)のノウハウ
FC琉球は、クラブが持つアセット(アジアへの立地、スタジアムの平均年齢が日本一若い<2018シーズン>=子どもが多い、年間1000万人の観光客、選手、育成)を生かし地域とさまざまな活動をしている。
・専門技術(デジタル・テクノロジー)、コミュニティ、ネットワーク
・尿検査による選手の疲労蓄積分析:選手×OIST(沖縄科学技術大学院大学)
・老人ホーム訪問パブリックビューイング:選手×地域コミュニティ×健康
・小学校職業講話:選手×地域小学校×教育
・ハーリー(沖縄伝統行事)参加:選手×沖縄伝統文化×観光客
・スポーツを通じた平和学習:JICA×ホームゲーム×国際交流
・台湾サッカー協会との協定:アジア×スクール展開×国際交流
Jリーグの現状
三上氏はJリーグの現状について以下のように見ている。
親会社の有無によって、クラブの営業収入の規模が大きく異なってくる。親会社からの広告収入が大きな要因。加えて、オリジナル10をはじめとする長い歴史を持つクラブが多く、新興クラブと比較し、クラブとして経営面の上積みも大きい。DAZNがJリーグに参入以降は、収入差がさらに大きくなっているので、親会社を持たないクラブは今後も厳しい状況が続くことが予想される。
FC琉球のチーム人件費はJ1・J2合わせて40クラブ中37番目(2020年度)。
収入における3本柱の割合は、「スポンサー収入」「入場料収入」「物販収入」である一方で、支出は大半がチーム人件費となっている。第4の収入=新たな事業の創出が必要となっているという。
沖縄での取り組み
沖縄県に来る旅行者について調査したところ、Jリーグを見るために沖縄に新しく来訪する人は多いということが分かった。(下記資料参照)
三上氏によると1試合当たり300人がJリーグを見るために沖縄を訪れる。
年間20試合、1回の来訪で現地で1人当たり約7万円が使われている。これらの数字を掛け合わせると、Jリーグの観戦に来る人で約4億円が沖縄県で消費されている計算になる。
FC琉球におけるアジア戦略
FC琉球では、Jリーグのアジア戦略に基づき、クラブのアジア戦略について以下のように掲げている。(参照:【公式】アジアサッカーへの貢献の理念:About Jリーグ:Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp))
1.アジア諸国においてJリーグの位置付けを確固たるものとすること
2.パートナーやFC琉球の新しい事業機会を創出すること
・テレビ放送を利用したアジア諸国でのJリーグの露出拡大
・Jリーグがこれまで培ってきたノウハウをアジア諸国と共有すること
・現地でのサッカークリニック、イベントの実施、ASEAN(東南アジア諸国連合)のリーグとパートナーシップ協定締結
質疑応答
Q.同じ沖縄県で活動されているBリーグ所属のプロバスケットボールチーム、琉球ゴールデンキングスと共同で活動する話はありますか?
A.すでに琉球ゴールデンキングスとは共同で活動しています。沖縄県はアメリカの文化がなじんでいるので、バスケは人気があります。琉球ゴールデンキングスは“沖縄を元気にする”ことを掲げています。一方FC琉球は当初サッカーを強くしようと考えていました。共に活動していく上でミッションの差を感じ、学ばせてもらっています。
Q.地域の人たちと触れ合う活動について、選手たちは協力的ですか?
A.特に沖縄県出身の選手は積極的に取り組んでいます。また、選手だけでなく監督の理解も必要です。
Q.地元の人たちが喜ぶ施策を見つける方法について教えてください。
A.喜ぶものについては、地域によって差があると感じています。町によっても上がってくる声が違いますので、地域に寄り添ったものを掲げてチームづくりに生かしたやり方がいいと思っています。
Q.地元企業・スポンサーとの取り組みについて教えてください。
A.5つの経営指標のうちの従業員満足について注目しています。従業員の子どもたちに専用のユニフォームを作ったりして、スポンサー企業の従業員満足向上に貢献しています。
Q.地域へのリサーチについて心掛けていること、手法を教えてください。
A.町の人の声ではなく雰囲気をつかむようにしています。直接上がってくる声は、本質ではないので価値はなく聞かないようにしています。声ではなく表情などで雰囲気をつかむようにしています。
Q.スポーツ業界・クラブに新卒で入るか転職して入るか、どちらがいいと考えていますか?
A.自分自身で何ができるか明確ではなかったら、新卒で入るべきではないと考えます。逆に何ができるか明確なら入るべきだと考えます。
三上氏は、「2019年に小野伸二選手がFC琉球に加入して初めてのホームゲーム(2019年8月17日、対横浜FC戦)で1万2019人と満員になった光景を見たが、迫力が感じられなかった。一方その1週間後のエイサーまつりでは3日間で35万人が訪れ、地元の青年や家族連れで盛り上がっていた。FC琉球も地域の人たちが盛り上がれるようなクラブにしていきたい」と語り、セミナーを締めた。
<講師プロフィール>
三上昴(みかみ・すばる)
Human Development Academy
筑波大学蹴球部、筑波大学院システム情報工学研究科にてMBAを取得後、ゴールドマンサックス証券株式会社債券営業部に入社。
同社を退職後、2018年よりFC琉球に参画し、2019年4月にはJリーグ史上最年少(当時31歳)で代表取締役社長を務めた。パートナーセールスを中心にビジネス業務全般を担う。
2012年 ゴールドマンサックス証券株式会社に入社
2018年 FC琉球に加入
2019年 FC琉球代表取締役社長に就任
2020年 Human Development Academy創業
深谷 友紀●文 text by Tomonori Fukatani
1970年生まれ。大学卒業後プラスチック成形メーカーに就職し、2010年よりフリーランスのWebデザイナーに転身、2011年からスポーツライターとしても活動を開始。主にサッカーなど地域スポーツクラブHP製作やサイト更新管理、スポーツ系のWebメディアの運営支援、記事寄稿などを行うなど、自身のスポーツ体験含め、「スポーツを語れるWebデザイナー」として活動中。
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実施場所:大和高田市内の公立中学校実施時期:2024年9月~2025年1月活動内容:休日の部活動を地域クラブ活動化し、学校管理外とした練習及び大会引率等の実施業務 :スケジュール調整、種目指導、活