企業とアスリートの関係 vol.1「城北信用金庫」~前編~
2016年10月22日 インタビュー アスリートマネジメント/セカンドキャリア Written by Sports Japan GATHER
SJNでは、アスリートとスポーツを愛する人でつくる新しいコミュニティーメディア「Sports Japan GATHER(ギャザー)」のご協力を得て、記事提供を頂いております。
2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、スポーツ、そしてアスリートに注目が集まる今、企業とアスリートの関係にも変化が生まれています。双方にとってメリットのある関係を築くために、何が必要なのでしょうか?
特集「企業とアスリートの関係」では、選手やスポーツ事業を支えている企業人に話を聞いていきます。
第1回は、現在7名(2016年10月時点)の現役アスリートが職員として競技活動を続けている「城北信用金庫」で理事長を務める大前孝太郎氏のインタビュー記事をお届けします。
<同金庫の理事長を務める大前孝太郎氏がアスリートを雇用した理由について話してくれた>
(出典:Sports Japan GATHER「企業とアスリートの関係-Vol.1-「城北信用金庫」(前編)」2016年10月11日)
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■アスリートの姿勢が社内に刺激を与える
<2013年4月に入庫したフェンシングの森岡美帆。働きながら競技活動を続けている>
東京都の北区や荒川区を中心に都内の城北地区、埼玉県南部を中心に本支店を構える「城北信用金庫」。
同金庫では、2013年4月にフェンシングの森岡美帆が入庫して以来、毎年2名ずつアスリートを採用し、2016年10月時点で現役アスリート7名、マネージャー職として元アスリート2名が在籍している。2016年には選手の一体感を生む「城北アスリートクラブ」も創設された。
雇用の取り組みを始めたのは、城北信用金庫の理事長を務める大前孝太郎氏。大前氏はかつて大学で教鞭(きょうべん)を執っていた際、スポーツマネジメントを研究している学生の問題意識に触れたことから、アスリートのセカンドキャリアについて考えるようになった。そして大前氏は信用金庫の経営に携わるようになってから、本格的にアスリートの雇用を検討。採用を始めたという。
「アスリートは、一般に人とは違うキャリアを築いています。しかし、引退後にそれを生かせるのはほんの一握り。そうした特異なスキルが生かせないのは社会的に損失ではないかと思い、採用することにしたんです」
企業がアスリートを雇用することは、大企業をはじめそれほど珍しいことではないが、その多くは1年から長くても数年の雇用契約。活躍の度合いや成績などによって、契約の可否が決まる場合が多い。
しかし、城北信用金庫の雇用形態は正職員。しかも、それぞれが自分の競技に専念できる待遇が用意されており、多くの選手は週に1日、所属部署に出勤するが、これも決められたものではない。
このような好待遇を用意しているのは、「社会的、金銭的に安心できる環境の方が、より練習に集中し、良いパフォーマンスを発揮できるはずだ」という大前氏の考えから。
■広告的な価値で判断をしない
<社内で働く森岡。世界で戦う姿を見て、他の職員の刺激となってくれることを期待している>
では、企業がアスリートを雇用するメリットはどういった点にあるのだろうか?
例えば、トップクラスのマラソン選手であれば、試合中に企業名の入ったゼッケンが長時間露出されるなど、広告・宣伝といった効果も期待できるが、同金庫が雇用しているのは、フェンシングや陸上・走り幅跳び、カヌー、テコンドー、フリースタイルスキーなど、マイナースポーツのアスリート。メディアなどへの大きな露出は期待できないのが現実だ。
「大きな舞台で選手が活躍して城北信用金庫の名前を広げてくれれば、それはもちろんうれしいことですが、広告的な価値を最重要視しているわけではありません。それよりは、スポーツを支援したいという社会貢献的な想いから始まっています。
同時に、スポーツは社会的に関心の高いテーマですから、選手紹介のリーフレットを作って、お客さまとのコミュニケーションツールとして使ったり、地域のイベントに参加したり、小学校からお声掛けいただいて、子どもたちの前で講演するなど、競技以外にも活躍してくれています」
そして何より重視しているのは、社内への影響だという。
「会社に勤めていると、どうしても視野が狭くなるというか…、限定的な社会の中で仕事をすることになります。ですが、社内に日本のトップや世界を舞台に戦う選手を身近に感じたり、試合に取り組む姿勢などを通じて、勇気付けられたり、鼓舞されることもあるでしょう。他の職員の刺激となってくれることを期待しています」
だが、アスリート職員が会社に与える影響は、すぐに表れるものではない。実際、2013年に初めて職員として森岡が入庫した時は、競技以外でどのように活躍してもらうべきか、そしてアスリートがいることを社内や社外にどのように伝えればいいのか、考えが固まっていなかったという。
しかし、年を追うごとにアスリートを増やし、さらにマネージャーとして元アスリートを雇用することで、社内・社外にも選手の活動を積極的にPRできるようになっていく。試合が近づけば、選手自身が各部署を回り、職員が集まって応援に行く姿も見られるようになった。
(後編へ続く)
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<profile>
大前孝太郎(おおまえ・こうたろう)
1964年2月19日生まれ、東京都出身。1987年、慶應義塾大学経済学部経済学科を卒業。住友銀行(現・三井住友銀行)等を経て、1998年より内閣官房特別調査院。2001年より内閣府参事官補、企画官。2006年4月、慶應義塾大学総合政策学部准教授。2009年6月より城北信用金庫常務理事、2012年より専務理事を務め、2015年に理事長に就任。
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【了】
奥田高大●文 text by Takahiro Okuda
写真提供:城北信用金庫
記事提供:Sport Japan GATHER
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<Sports Japan GATHER(ギャザー)とは?>
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