企業とアスリートの関係 vol.1「城北信用金庫」~後編~
2016年10月23日 インタビュー アスリートマネジメント/セカンドキャリア Written by Sports Japan GATHER
SJNでは、アスリートとスポーツを愛する人でつくる新しいコミュニティーメディア「Sports Japan GATHER(ギャザー)」のご協力を得て、記事提供を頂いております。
2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、スポーツ、そしてアスリートに注目が集まる今、企業とアスリートの関係にも変化が生まれています。双方にとってメリットのある関係を築くために、何が必要なのでしょうか?
特集「企業とアスリートの関係」では、選手やスポーツ事業を支えている企業人に話を聞いていきます。
第1回は、現在7名(2016年10月時点)の現役アスリートが職員として競技活動を続けている「城北信用金庫」で理事長を務める大前孝太郎氏のインタビュー記事をお届けしています。
前編はこちら⇒https://sjn.link/news/detail/type/report/id/87
前編では、同金庫がなぜアスリート職員を雇用するのかといったお話を伺いました。後編では、アスリートを雇用する際の基準や見ている点から、お話を進めてまいります。
<城北信用金庫・理事長を務める大前孝太郎氏。アスリート採用で重視してるのは、人間性と引退後にどういった活躍ができるかという点>
(出典:Sports Japan GATHER「企業とアスリートの関係-Vol.1-「城北信用金庫」(後編)」2016年10月18日)
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■競技以外にも目を向けられる人を採用する
城北信用金庫のアスリート採用は、日本オリンピック委員会(JOC)が実施している就職支援制度「アスナビ」が中心。採用方法も一般の職員とは異なり、エントリーシートや提出書類などは重視されておらず、面接が中心。入庫後、約2週間は他の職員と同様、一般的な研修を受け、その後はそれぞれの練習を開始。アスリート職員には、栄養研修、マナー研修なども実施している。
採用の際に大前氏が重視しているのは、人間性と引退後にどういった活躍ができるかというところだ。
「素晴らしい成績を残していても、けがをするかもしれませんし、調子を崩すこともあるでしょう。ですから、これまでにどういった経験をして、競技を続けてきたのかなどを重視します。例えば、2016年に入庫したフリースタイルスキーの鈴木沙織は、一度競技を諦めて美容師になったのですが、その後、諦めきれずに種目を変えて、再起を果たしたストーリーを持っています。
そしてもう一つ、重視しているのは、引退後にどういった仕事を任せられそうかという点です。例えば、地域振興や地元商業を盛り上げる企画を考えてもらったり、プロモーションや広報業務など、金融業務以外で活躍してくれそうかどうかを見ています。もちろん、実際、引退後にどうなるかは分かりませんが、いずれにせよ『スポーツしか知らない、興味がない』という選手は採用に至りませんね」
<2016年に入庫したフリースタイルスキーの鈴木沙織は、一度競技をやめ、美容師の道に。しかし、諦めきれず再度現役に復帰。競技だけではなく、さまざまな経験をしていることも採用の鍵となった>
こうした考えから、会社での勤務時には社会や地域のこと、スポーツとは別の世界のことに目を向け、それに対して何ができるのかを考えるように伝えているという。
「練習を重ねて、五輪に出場し、メダルを取ることができれば、それは素晴らしい。しかし、『それで一生、生活できますか?』と、選手にはいつも問い掛けます。もちろん、中にはそうした選手もいるかもしれませんが、現実にはそうでない選手の方がずっと多い。アスリートにとっては夢が無い話かもしれませんが、引退した後の方が人生は長いことを考えるべきだと思います」
■意識が変われば理解者も増える
アスリート職員を雇用するメリットとして、社内の一体感を促進するという点はよく語られるが、実際のところはどうなのだろうか?
「例えば、従業員が数十名から数百名前後の規模の会社であれば、アスリートが一人いることで、従業員の一体感の向上などの効果が期待できるかもしれません。しかし、1000人以上いるような規模の企業では、アスリートを一人採用しても、社内的にも、社外的にもよほどアピールしていかないと、経営者が期待するような効果は難しいでしょう」
雇用に関する費用に関しては同金庫の場合、給与体系は一般的な職員と同様だが、大会成績に応じて、報奨としての手当を支給する制度を設けている。さらに、より良いパフォーマンスを発揮することを期待して栄養手当などが支給されるほか、遠征費や身体のメンテナンス費なども負担。フェンシングなど、活躍の舞台が海外になるスポーツは、費用が掛かる傾向にある。
同金庫では、アスリート職員の費用対効果や貢献度を測る指標などは用意していないが、マネージャーと選手が相談して目標を設定するほか、同僚の選手が講演するイベントのサポート、試合の告知を選手自らが行うなど、社内・社外で競技以外の活動をすることもある。また、城北信用金庫にはマネジメント事業を行う子会社があり、アスリート職員は同金庫との雇用契約とは別に、主に肖像権の管理を中心にマネジメント契約も結んでいる。
最後に、企業とアスリートがより良い関係を築くためには、アスリート自身が意識を変えていく必要があると、大前氏は話してくれた。
「企業がアスリートを雇用する際に、何かしらの効果を求めることは当然のことです。だからこそ、アスリートは社会的な自分の立ち位置や周囲との関係性、なぜ自分が契約・雇用されているのかを、意識する必要があると思います。そして、そうした意識を持っているのならば、『契約を結んでいる企業に対して、何ができるのか?』を行動や態度で示していく必要があります。もちろん、競技に集中しなければいけませんが、そのような選手が増えれば、もっと理解者も増えるはずです」
7人の職員には、「やっぱり五輪に出てほしい!」と話す大前氏。しかし、それは金庫の知名度向上以上に「選手として、一つの節目がつくはず」という思いから。同金庫所属の選手が活躍し、企業とスポーツの新しい関係を見せてくれることを期待したい。
城北信用金庫HP
http://www.shinkin.co.jp/johoku/
城北信用金庫アスリート職員トップページ
http://www.shinkin.co.jp/johoku/about/athlete/index.html
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<profile>
大前孝太郎(おおまえ・こうたろう)
1964年2月19日生まれ、東京都出身。1987年、慶應義塾大学経済学部経済学科を卒業。住友銀行(現・三井住友銀行)等を経て、1998年より内閣官房特別調査院。2001年より内閣府参事官補、企画官。2006年4月、慶應義塾大学総合政策学部准教授。2009年6月より城北信用金庫常務理事、2012年より専務理事を務め、2015年に理事長に就任。
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【了】
奥田高大●文 text by Takahiro Okuda
写真提供:城北信用金庫
記事提供:Sport Japan GATHER
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<Sports Japan GATHER(ギャザー)とは?>
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